1975年、アメリカから再びパリの地へ戻ったインゲルは、精力的に個展や展示会を開きながら、母国語であるヘブライ語の文字や、飾り文字などを絵画作品の中に取り入れ、宗教的なモチーフを描いた具体的な作品から抽象的なものまで、様々な絵を描き続け、アメリカでつかみかけた新たなる表現手段を模索していた。
そんなある日、パリのノミの市で、手書きの古い楽譜に出会う。その美しさとエレガントさに魅せられたインゲルは、楽譜の音符が自分の描いてきた飾り文字に似ていることに気付き、その楽譜を実際に紙の上に置き、重ね合わせてコラージュの要素として用いてみた。一枚の楽譜との出会い、そしてコラージュするという偶然が、インゲルの中で運命の必然になった瞬間である。まさにこの瞬間こそが、インゲル特有の音楽的感性によるコラージュ作品が響き始めたイントロダクションとなる。