〜コラージュ時代〜

音楽と絵画の饗宴

1980年代後半になると、作品はさらに洗練されてゆく。

楽譜の切れ端、手紙やカードの断片、また、ある時は新聞や小説の一編、ちぎれた壁紙やレース、ガラスの破片や薬品、科学物質までも、それぞれの物体に刻まれた意味や時間を包み込み、メッセージを奏でる旋律の一音としてキャンバスに敷き詰められてゆく。

そこにアクリル絵の具や油絵の具、さらにモチーフによっては、金属の顔料なども用いて、時に力強く、時に優しくめくるめくように幾重奏にも美しい色彩のハーモニーが構築されていく。

完成した作品の厚さはキャンバス表面から、数センチ以上も盛り上がり、大人が二人でやっと持ち上がる重さの作品も製作している。

インゲル作品が、キャンバスの上に微妙なバランスで互いに響き合う、音楽的な絵画であると世界各国で評価されているのは、空間に存在する『絵画』と、時間の中に存在する『音楽』とういう方法論のふたつ芸術が、彼の中で融合され、全く新たなカテゴリーを創造したことが支持されているからである。

愛と調和 〜運命を奏でる〜

まだ幼いインゲルがはじめてフルートを吹けたある日、志を同じくする仲間達とフランスで舞台芸術を学んだ青春時代、ニューヨークの前衛的なポップアートに影響を受けた青年時代、そして1975年に一枚の楽譜と運命の出会いを果たしたときも、インゲルは人々の心を一つにし、感動を与える芸術、音楽に敬意と愛着を持ち、アートにおけるその無限の可能性を感じていた。

自らの生い立ちや運命に導かれるまま芸術家として世界を駆け巡り、体得したコラージュ技法は、それぞれの個性やパーツがお互いに調和して一点の作品を構築している。

それはまさに、憎しみや争いを超え、全ての生命や精神が、互いの存在を尊重し、一つになる永遠のパラダイスの姿。

今、地球上に暮らす誰もが探している愛のハーモニーなのだ。


ニッサン・インゲル バイオグラフィ