ユダヤの教えに深く関わっている古代のカバラ経典は、にしヨーロッパのユダヤ人文明が栄えた18世紀のスペインでも発展した。経典には神の存在や人種の起源、瞑想や祈りについてなど、この世界の森羅万象が記されていると言う。
インゲル画伯はスペインを訪れたとき、カバラ経典などの歴史のある書物や、建築物などにもインスピレーションを受ける。常に上部と下部に区分される彼の作品の特徴はキャンバスの下の方に神が創造した大地を表し、物質的、肉体的な世界が表現されており、上の方は我々の精神や想像力、夢、などのスピリチュアルなモチーフが描かれている。
「私は色彩や感情の様々な印象を作品の中で表現します。私の作品作りはまず、素材作りから始まります。それは、色彩、顔料、生地、砂、樹脂、原稿や古い手紙などを混ぜ合わせた雑多な要素から成る一つの表現なのです。作品を彫刻のように作り始め、それから始まった要素に色彩、光の効果、素材などを加えていき、表情を出していきます。私は、作品の中に、歴史上の人物や出来事について18世紀に羽のペンで描かれた黄ばんだ紙を取り入れるのが好きです。作品の表面は、決して滑らかではありませんが、濃いブルーや赤を加えて、いわば小説でいう序文を作っておきます。私は、これらの手紙や文書を書いた人々の思い出を、我が物のようにしてしまいたくはありません。彼らの思い出を尊重するからこそ、それを私が表現し尽してしまう代わりに、作品の中に彼らのための空間を残しておくのです。」(ニッサン・インゲル)